Azores諸島のスギ林業の視察
宮浦 富保
2000,3,25
当初の予定よりも約8時間遅れてリスボンに到着。アルメイダ教授が空港まで迎えにきてくれていた。朝来てしばらく待っていたが,しばらく待っていても我々が出てこないので一度家に帰ったところ,倉田課長からのFAXが届いていたとのこと。おそらく倉田課長がアゾレスの森林局に送ったものが転送されていたのであろう。
アルメイダ教授の車で市内を見学しながらAmazonia Lisbon Hotelへ。アルメイダさんはあまり車の運転がうまくない。話をしながらだと,標識や信号を見落としたり,一方通行を逆進しそうになったりしながらの運転だった。
土曜日と日曜日は我々のために空けてくれていたとのこと。この日は我々も疲れていたし,アルメイダさんの家族のこともなんとなく気がかりだったので,ホテルのチェックインを済ませたところで別れた。翌日9時に迎えにきてくれるとのこと。
25日深夜から26日にかけて,冬時間から夏時間への切り替えが行われるということをアルメイダさんが教えてくれた。午前0時になったら1時間戻すのだとのこと。ホテルの部屋で靴下を洗濯していたら,アルメイダさんから電話があり,1時間戻すのではなく1時間進めるのが正しい」とのこと。実におっちょこちょいである。
ホテルの近くのレストランで夕食。ここでたまたま日本人の女性に出会った。60歳前後か?ポルトガルで銀行に長く勤めていて,ポルトガル人と結婚したらしい。
2000,3,26
9時にホテルをチェックアウトし,荷物をフロントに預けて,アルメイダさんの車でリスボン市内へ出発。リスボン工科大学の施設等を見学後,アルメイダ教授の学科の会議室で情報交換。
[アルメイダ教授との打ち合わせ]
ポルトガルでは企業が主体で育種活動を行っている。
ポルトガルで育種の対象としている樹種はEucalyptus globulus,Quercus suba,Pinus pinasterなどである。このうちEucalyptus globulusについては主に企業が中心となって育種活動を進めており,数千のプラス木が選抜されているとのことである。Quercus subaはコルクを生産するのが目的の樹種であるが,生産までに長期を要するため,その育種は政府の主導で行われている。
アルメイダ教授の部屋は3畳程度の小さな部屋だった。アインシュタインの写真が貼ってあった。
川の近くの倉庫を改築したレストラン街で昼食。ヒラメのグリル。あっさりした味。デザートはコールドクリーム。うまかった。アルメイダ教授のおごり。
川の近くの博物館見学。教会がくっついている。天井が高く,30m位ありそうだった。ここもアルメイダ教授のおごり。
Pic.1 Lisbon大学からの景色。Lisbon市の中心部の方向を見ている
Pic.2 Lisbon大学からの景色。海(橋)の方向を見ている
Pic.3
Pic.4
Pic.5
Pic.6
夕方5時ごろ空港に送ってもらい,アルメイダ教授と別れた。リスボンの街はゴミや犬の糞が少なくて,パリよりも清潔な感じ。
出発ゲートから飛行機までのバスの中で川内さんという日本人に出会った(というか向こうから話しかけてきた)。アゾレスでの通訳を務めてくれるらしい。森林局が手配したようだ。何となく心強くなった。
ポンタ・デルガダの空港には森林局の職員が迎えに来てくれていた。ハンサムな黒人。ホテル到着後,明日の出発時間を決めてそのまま別れた。
2000,3,27
局長(アゾレス諸島森林局)Mr.Jose Fernando Primentel Mendes
と昨夜の職員がホテルに迎えにきてくれた。
Pic.7 Azores諸島
Pic.8 Azores諸島の景観(パンフレットより)
Pic.9 São Miguel島の地図
[Ponta Delgadaの近くの苗畑を視察]
ここで Ms. Sofia Moura, Ms. Leonor Penacho, Mr. Jacinto と会った。以後同行。
この苗畑では,117クローンのスギ苗をスペイン経由で入手し,養苗している(写真1枚)。現在,さしつけ後2年が経過している。また,137家系の精英樹等の種子を日本から入手し,これらについても養苗している。これらの材料を用いて産地試験地を造成し,アゾレス諸島に適応する産地,系統を明らかにする予定である。
この苗畑では事業用の苗木も生産している。写真(2枚)の苗は,1999年1月ごろに播種したもので,1回床替えを行ったところである。床替えの時期は通例12月から1月ないしは2月。2000年12月に山出しの予定である。植栽予定地の標高が高いところでは3月頃まで植栽が可能である。アゾレス諸島では標高600m程度までスギを植栽できるとのことであった。なお,ここで生産している苗の種子源は周囲の造林地であるとのことであった。
アゾレス諸島全体では400万本の苗木の需要がある。1999年には完全にこの需要を満たすことができた。
Pic.10 Ponta Delgadaの近くの苗畑
Pic.11 Ponta Delgadaの近くの苗畑付近の景観(牧草地の防風林にスギが植栽されている)
Pic.12 Ponta Delgadaの近くの苗畑(スギの苗)
[二つ目の苗畑(Ponta Delgadaの東)の視察]
Pic.12 Ponta Delgadaの東の苗畑
Pic. 13 近くの山の写真1枚(ユーカリ(groburus),スギが見える)
Pic. 14 温室内でのさし木試験(学位の為の試験)
土壌の質を変えて,いくつかのクローンで実施している。
Pic. 15 苗畑周辺の景観
所々にスギが植えられている
[プラス木の選抜について]
現在までに75本のプラス木を選抜した。今年はさらに150本を選抜する予定である。
プラス木の選抜基準:
幹の断面形が正円であること
通直性
落枝性 − 死に節ができにくいこと
樹冠が斉一であること
ナラタケ菌に感染していないこと
成長がよいこと
昼食はCozido(地中から蒸気が噴出している場所に穴を掘り,この中に豚肉,鶏肉,ハム,ソーセージ,キャベツ,サトイモ,にんじんなどを入れたポットを入れ,5時間ほど蒸したもの,ソーセージ,ハムの塩味が野菜や肉に移りおいしい。)
昼食後,Mr. Jacinto はいなくなった。
Pic. 16
[Nordeste地区のスギ人工林の視察]
途中でNordeste地区の森林局長のMr. Marioと合流。
Nordeste地区のスギ人工林は約2200haで,アゾレス諸島の中では最も規模の大きい人工林である。
最初我々が視察したところは14年生の人工林だったが,樹高が7〜8mといったところで,成長はそれほどよくなかった。海抜は400mとのことだった。また,この場所は以前は牧草地であった。この人工林で間伐を実施し(悪い個体を除き),採種林に誘導する予定である。その際,良好な個体を断幹し,採種園のように種を取りやすい樹形に仕立てる予定である。14年生でこのような間伐,断幹を実施することは早すぎるだろうか?という不安を持っている。これについては,帰国後専門家と相談し,回答することにした。
下の写真は,約30年生のスギ人工林である(遠くの方)。手前に見えるのは牧草地とその周りを囲うスギの防風林。これらの防風林の造成にはEUから補助金が出ているらしい。
約30年生のスギ人工林で選抜されたプラスツリーと周囲の3大木。
アゾレス諸島では,土地条件のよい場所だと年間ヘクタールあたり20立方メートルの材積成長があるらしい。
Nordest地区森林局の苗畑を視察した。この苗畑で生産しているのはスギの苗木がほとんどで,年間に120万本の苗木を生産している。これらの苗木は民間へ無料で提供されている。